#8-HIF-1の活性化と低酸素センシング機構-歴史編

#8-HIF-1の活性化と低酸素センシング機構-歴史編

hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)は、erythropoietinの発現調節に関わる転写因子として単離された。

cDNA単離に続き、血管内皮由来因子(VEGF),glucose transporte I(GLUT1)などを含む低酸素誘導性遺伝子の発現誘導にもHIF-1が必須ともいえるほどの大きな役割を果たしていることが明らかになってきた。1998年に発表されたHIF-1a欠損細胞を用いた研究でHIF-1が低酸素誘導性遺伝子応答に果たす役割の大きさが改めて示された。

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Genes Dev. 1998 12: pp149-162より引用

HIF-1は低酸素誘導性解糖系酵素の発現の調節因子である+/+, -/-はhif-1aのゲノタイプを示す。

次の大きな課題は低酸素がいかにHIF-1を活性化するか、その分子機序の解明となった。

つまり酸素センサーの同定である。

初期から様々な仮説が提出された。

大腸菌の膜蛋白質にFixLと名付けられた膜蛋白質が存在し、ヘム蛋白の一種であり酸素の結合により立体構造の変化が誘導され蛋白質の機能の変化にいたるという酸素分圧感知機構が知られていた。

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HIF-1の場合、制御サブユニットHIF-1aはヘム蛋白質でもないし、鉄結合蛋白質でもないことが示されていたが、細胞質内のこのような蛋白質が酸素センサーとして機能することで低酸素の感知が行われているという仮説があった。

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Perspectives on Oxygen Sensing Cell 98 pp. 281 – 284より引用

もう一方の仮説は酸素分圧の変化が細胞内の活性酸素腫(reactive oxygen species; ROS)の産生量の変化に変換されてHIF-1に伝わるというものであった。

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Perspectives on Oxygen Sensing Cell 98 pp. 281 – 284より引用

またHIF-1活性化に関わる酸素分圧感知機構の解明とは独立にcarotid bodyでの酸素分圧感知機構、血管緊張の酸素分圧による調節に関わるイオンチャネルの酸素分圧による調節機構の研究が進んでいた。

いくつかの酸素分圧感受性のカリウムチャネルが同定されている。

しかし、これらのカリウムチャネルの酸素分圧による調節は、HIF-1aの酸素分圧による調節と用量ー反応曲線などもまったく異なり別の分子機序で担われていることも明らかになっていた。

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N Engl J Med (2005) 353:p2042より引用

いくつかのpotassium-channelは酸素分圧感受性を持つ。

低酸素センサーの同定は2001年にセントラルドグマが提出されるまでHIF-1研究最大の課題であり続けた。


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