#7 酸素の流れ

#7 酸素の流れ

HIF-1について考える前に生体内の酸素の流れを考えてみます。

培養細胞を用いた研究がどれくらい生体での低酸素応答と対応しているかを考える基礎となると思います。

培養細胞を用いた”低酸素”では、従来、20%酸素、5%二酸化炭素、75%窒素の混合ガスで満たされたインキュベーターの環境を”常酸素 (normixia)”条件、一方例えば1%酸素、5%二酸化炭素、94%窒素の環境を”低酸素 (hypoxia)”条件として実験を進める。

Western blotはある培養細胞を用いた実験結果である。

20%酸素下では検出限界以下の発現量しかないHIF-1aが5%,1%環境の酸素分圧が減少するに従って明確に検出できるようになってくる。

1-5-20%.jpg

酸素のフローを見てみよう。

肺胞の分圧は110 mmHg程度であり動脈血中では約100 mmHg程度となっていて,毛細血管を離れ、間質中では40-20 mmHg (5%)となり細胞内の酸素分圧は最終的には20-10 mmHg(一気圧下では、2.7-1.3%程度)となっている。一般に「酸素の滝」といわれるカスケードである。

組織間質の酸素分圧が培養環境の酸素分圧と相同であると仮定すれば、生体はおおざっぱには5%程度の酸素分圧環境にさらされていて。様々な環境変化により1%程度の”低酸素”に暴露される可能性があるといえる。

人が空気を吸入している場合肺胞で理想的なガス交換が行われても動脈血の酸素分圧は一気圧下では100mmHg強にしかなり得ないので血管内皮細胞でさえ酸素分圧150mmHgの環境に触れることはない。

ブタを使った腸管の酸素分圧を酸素電極を用いて測定した結果を以下に示した。100%酸素を吸入して動脈血の酸素分圧が454mmHgとなっていたとしても小腸粘膜の酸素分圧は52mmHg程度にしかならない。

組織分圧.jpg

(Ratnaraj, J. et al Anesth Analg 2004;99:p207)

こういった研究は臓器や腫瘍の酸素分圧を考える基礎的な資料となると思う。臓器、組織の酸素分圧はさまざまな因子で複雑に調節されていることが判明している。

腫瘍への血流もxenograftの様にendogenousな血管の関与がほとんど無視できるまたは期待できないものから臓器本来への血流調節を一部受けているようなものまで多様であり一概に論じることはおそらくできない。

酸素分圧-活性.jpg

低酸素性のHIF-1の調節における酸素-HIF-1の用量ー反応曲線である。

5%O2分圧に点線が引いてあるがこれは厳密には閾値ではない。しかし、現象的には閾値として見える。

特別な状況下ーepigeneticallyに発現が厳密に抑制されているなど(こんなことあるのでしょうか? 誰か調べてみてください)ーを除きHIF-1の活性化はある。

つまり細胞では程度の差はあるにせよHIF-1の活性化はあるのであるが、検出系がWestern blotならWestern blot、reporter assayならresorter assayで感度の差があるだけだとぼくは考えています。

ミトコンドリアの電子伝達系での最終電子受容体として機能して、酸化的リン酸化によるATP産生を促します。

肺胞からミトコンドリアまでの酸素の流れのどこかに障害が生じれば酸素不足つまり低酸素が起こることになります。

エネルギー産生を酸化的リン酸化に大きく依存している細胞例えばニューロンなどは酸素供給が絶たれると容易に機能不全を経て不可逆的な細胞死に陥る一方、アストロサイトはグルコースの供給さえ確実なら解糖によりATPの産生が可能で、このように同じ脳の中であってもすべての細胞にとって酸素は同じ重要度を持つわけではないこともわかっています。

このような事を確認の上で次のステップに進みましょう。


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