#6-hypoxia-inducible factor 1またはhighly involved factor

#6-hypoxia-inducible factor 1またはhighly involved factor

米国ボルチモア市のJohns Hopkins 大学の小児科医Gregg L. Semenza博士は、1980年代の後半にエリスロポエチンの低酸素誘導性の発現誘導に関わる細胞内の因子の単離を決意しかなりオーソドックスな分子生物学的手法を用いて1995年にcDNAの単離に成功した。hypoxia-inducible factor 1(HIF-1; 低酸素誘導性因子 1)である。ーとにかく何でも番号をつけるのが彼の趣味である。HIF-1, FIH-1など)

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Semenza氏は、小児科の医者である。少なくとも10年前にはbeeperを持っていたしレジデントが研究室で彼に怒られていた。米国の研究室には医学部志望のテクニシャンがたくさん働いている。何でMDが基礎研究をするのか理解できないと考える人もいるようである。ぼくも何で?という質問をされた。答えるかわりにあんたのボスに質問してみたら?と振ったところ本当に質問した。子供の病気の多くは子供に責任が無くそのような無垢な子供に奉仕したいという気持ちで小児科を選んだと答えていました。

少し前に会ったときには臨床やめたと話していました。お前もやめたらとも云われました。

HIF-1は転写因子である。ゲノムワイドな研究によればすくなくとも6000個以上(ヒトの遺伝子は現在では25000個程度しかないと推定されている)の遺伝子の発現がHIF-1によって支配されていることが判明している。

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HIF-1はhelix-loop-helix(HLH)とPer-ARNT-SIM(PAS)ドメインを持つアルファサブユニット(HIF-1α)とベータサブユニット(HIF-1β)が疎水結合で結びつき一つの機能的な蛋白質を構成している転写因子であり、活性化したHIF-1は細胞核に移動し標的遺伝子の発現制御域(hypoxia response element; HRE, 5′-RCGTG-3′ (R=A or G))に結合し発現を促す。

活性の制御に関わるサブユニットはHIF-1αであって、培養細胞を用いた検討から要約すると以下のような性質を持っている。

  1. 20%酸素下での培養状態では細胞内のHIF-1α蛋白質の発現量は非常に低く抑えられているが酸素分圧の低下に反応して5%以下の培養条件で急激に蛋白質の発現量が増加する。
  2. タンパク質の変化とは独立して転写因子としての活性(転写活性化能)が酸素分圧の低下に伴い上昇する。
  3. 活性化したHIF-1は細胞核に移行して発現制御域に結合し標的遺伝子の発現を促す。

HIF-1のこれらの性質を分子生物学的に理解することから低酸素感知機構の研究がスタートした。


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